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赤ちゃんの不思議

一緒にウトウト…でコミュニケーション

この記事を監修したのは

小西行郎先生

日本赤ちゃん学会理事長/小児科医

2001年赤ちゃんをまるごと考える「日本赤ちゃん学会」を創設。2008年10月1日より現職。主な著書に『赤ちゃんと脳科学』(集英社新書)、『赤ちゃんのしぐさBOOK』(海竜社)、『発達障害の子どもを理解する』(集英社新書)、『はじまりは赤ちゃんから』(赤ちゃんとママ社)他。

ママを眠りに誘う添い寝の「引き込み現象」

ベビーを寝かしつけているつもりが、ママがウトウト…。
いつの間にか、ベビーと一緒に寝てしまった、などということはよくあります。これは動物が行なっているコミュニケーションのひとつで、「引き込み現象(エントレイメント)」という名前がついています。

添い寝をしているときの、ママとベビーの心音(心臓のドキドキという音)の速さを分析した、こんな研究結果があります。

ママがベビーの寝かしつけを始めると、まずママの心音の速さがゆっくりになっていきます。すると、ママの心音に引き込まれて、ベビーの心音もゆっくりになり、やがて眠り始めます。今度はベビーの心音の速度に同調して、ママの心音の速度はさらにゆっくりになっていきます。この現象は心音だけでなく、呼吸にも同様に見られます。

こうした引き込み現象は、お互いのリズムが同調していく過程を通して、コミュニケーションを円滑にするという効果をもたらします。

動物の引き込み現象で有名なのは、東南アジアに棲息するホタルの例です。最初、一匹一匹のホタルはそれぞれ別々のリズムで点滅を繰り返していますが、同じ木に止まって点滅するうちに同調が始まり、やがて一斉に点滅するようになります。その姿は、まるでクリスマス・ツリーのようです。

こうした、体全体を使ったコミュニケーションは、自分の体を通して相手との関係を築くことから「身体コミュニケーション」とよばれています。身体コミュニケーションは、ベビーとママの絆を形成し、ベビーの言葉や認知の発達に本質的に関わるとても大切なものだと考えられています。
ですから、添い寝のはずがベビーと一緒に眠ってしまっても、おおいばりでいればいいということです。

 

大人同士にも見られる引き込み現象

ママとベビーの関係だけでなく、大人同士の間でもこの引き込み現象は起こっています。たとえば、ふたりで並んで歩いていると、自然に歩調が合ったりしませんか?また、相手の話に合わせて聞き手がうなづいたり、あいづちをうつのも、引き込み現象のひとつだといわれています。

行動発達学の分野からは話がそれますが、心理学の分野では「ミラーリング効果」とよばれています。たとえば、相手が腕をくんで話していると、いつの間にかこちらも腕をくむ。相手がグラスの水を飲むと、自分も水を飲む、といった具合に、好意をもっている相手のしぐさを無意識のうちに真似したり、反対に自分と同じしぐさをする相手に好感をもつという現象です。

人間がコミュニケーションをとるのは、言葉がほとんどだと思いがちですが、じつはノンバーバル(非言語的な)コミュニケーション、つまりしぐさや行動などによるコミュニケーションが大半を占めていて、その割合は85%から95%程度だといわれています。

そう考えると、体全体を使ったベビーの働きかけが、親子のコミュニケーションを考えるうえで、とても重要な意味をもつことに気付きます。

 

相互作用が親と子の絆を形成する

ベビーは、泣いたり、微笑んだり、声をあげたり、さかんに手を動かしたりと、さまざまなしぐさをします。これらは「シグナル行動」といい、ママの注目を引き、自分の側に引き寄せるためのしぐさだといわれています。

さらに、少し大きくなると、ママを探し求める、後追いをする、しがみつく、しゃぶるなど、「接近行動」が現れます。これは、ベビーからママに近づくことで、その近しい関係を保とうとする行動です。

ママは、こうしたベビーの行動やシグナルに応えたり、反対に働きかけたりすることで、ベビーの行動に反応します。そして、ベビーが行動をやめると、ママも反応するのをやめます。

とくにわかりやすい例は、ベビーの泣きとあやしの関係でしょう。ベビーが泣くと、ママはごく自然に「どうしたの?」となだめます。するとベビーは泣きやみます。この、お互いに働きかけあう「相互作用」が、親子の間に強い絆を作っていくと考えられているのです。

最近では、この相互作用は、パパとベビーの関係でも同じだと考えられるようになってきました。パパも妊娠中から胎児に語りかけたり、分娩に立ち会ったりと積極的に育児に関わっていけば、相互作用が生まれます。ママとベビーだけでなく、パパ&ベビー、おじいちゃん・おばあちゃん&ベビーなど、さまざまな人との間に相互作用が生まれれば、ママの精神的な負担が減るばかりでなく、ベビーもさまざまな影響を受けながら成長できるのではないでしょうか。

 

仕事をしていたって強い絆が作られる

みなさんの中には、ベビーが生まれた後、仕事への復帰を意識している方もいることでしょう。そうすると、十分にベビーと接する時間がとれないので、親子の絆をしっかりと築けるのか不安に思うかもしれません。

しかし、心配する必要はありません。大切なのは、一緒にいる時間ではなく、相互作用なのです。
ベビーが何かシグナルを送ったとき、それにしっかりと応える。あるいは、ママのほうから働きかける。そのやりとりの積み重ねが、お互いの絆をしっかりと築いていきます。どんなに長い時間一緒にいても、相互作用のない関係は絆が形成されません。短い時間でも、しっかりとシグナルをキャッチし、それに応えていくことで、お互いの絆は必ず深まっていくはずです。そして、一度築いた絆は、そう簡単には崩れません。

子どもが成長する過程では、楽しいことだけではなく、悩んだり、面倒なことにもぶつかります。そんなときに、この相互作用のあり方が、とても重要になってくると思うのです。

ベビーの愛くるしい微笑みは、これから共に生きていくパパとママに、相互作用の練習をするキッカケを与えてくれているのかもしれませんね。

 

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