この記事を監修したのは
荒田尚子先生
医師/国立成育医療研究センター 周産期母性診療センター 母性内科 診療部長
妊娠に関連した糖代謝異常や甲状腺疾患を中心とした母性内科を専門に、女性の人生を見据えた医療・ケアに取り組んでいる。
妊娠糖尿病と診断された妊婦さんは、妊娠中のみならず出産時や産後の生活に不安を覚えることもあるでしょう。そんな妊婦さんたちのため、気になる情報をQ&A形式で紹介します。
〈目次〉
【出産編】
【産後編】
妊娠糖尿病 妊婦さんの出産Q&A
Q:生まれてくるベビーのことが心配です。妊娠糖尿病によってどんな影響がありますか?
A:妊娠中~産後まで、さまざまなリスクがありますが、やみくもに怖がる必要はありません
妊娠糖尿病によるベビーへの影響には以下のようなものがあります。
- 赤ちゃんがお腹の中で成長しすぎて巨大児(4000g以上)になる
- 巨大児のため分娩の時に肩がひっかかってなかなか出てこない(肩甲難産)
- 肩甲難産の結果、仮死状態で生まれたり、鎖骨の骨折をおこしたり、頸から肩にかけての神経麻痺をおこしたりする
- 生まれた後に低血糖になりやすい
- 多血症で生まれて黄疸が長引いたり、けいれんをおこしたり、呼吸がうまくできなかったりする
いずれも妊娠中の血糖値を適正にコントロールできていればリスクは低下するので、やみくもに怖がる必要はないでしょう。
Q:妊娠糖尿病と診断されたら帝王切開になりますか? 普通分娩で産むことはできますか?
A:妊娠糖尿病であってもなくても出産は原則、普通分娩(経腟分娩)が第一選択です。ただし妊娠糖尿病の妊婦さんは、帝王切開になるリスクが少し高くなります
普通分娩(経腟分娩)で出産することはもちろん可能です。妊娠糖尿病の有無にかかわらず、出産時は普通分娩を選択するのが原則です。帝王切開が行われるのは、ベビーや妊婦さんに何かしら普通分娩ができない理由があるときのみ。それはどんな出産でも同じです。ただし妊娠糖尿病の妊婦さんの場合、糖代謝機能に異常のない妊婦さんよりも帝王切開になる確率が2~4倍程度、高くなる傾向があります。そのことはあらかじめ理解しておくとよいでしょう。
Q:妊娠糖尿病の妊婦さんが帝王切開になる場合の、おもな原因を教えてください
A:ベビーが巨大児の場合や妊婦さんが合併症をおこしそうな場合、帝王切開が選択されます
まず、急な状態の悪化があった場合は帝王切開での出産になることがあります。それ以外で妊娠糖尿病の妊婦さんが帝王切開を選択する原因は、大きく以下の2つに分けられます。
- ベビーが巨大児の場合
4000g以上で生まれてくるベビーは巨大児といわれます。妊娠糖尿病の妊婦さんのベビーは、巨大児になる確率が高くなります。巨大児の場合、ベビーの肩に筋肉や脂肪が蓄積し、頭の幅よりも肩幅が大きくなってしまうことから普通分娩が困難となることがあり、帝王切開が選択されるケースもあります。
- 合併症をおこす危険性がある場合
妊娠糖尿病の妊婦さんは、妊娠高血圧症候群の合併症を引きおこす頻度が通常よりも数倍高くなります。妊娠高血圧症候群とは、何らかの原因によって妊娠中に高血圧または高血圧+血管障害や臓器障害など、さまざまな症状が現れる一連の症状のこと。症状が重症化した場合や分娩の進行状況によっては帝王切開が行われます。
妊娠糖尿病 妊婦さんの産後Q&A
Q:産後も妊娠中と同じ治療をする必要がありますか?
A:同じ治療を行うことは基本的にありません。産後の体の状態に合わせて変えていきます
出産を経ると女性の体の状態は大きく変わります。例えば食事については授乳が始まるため、授乳期間中は、妊娠前の摂取カロリーに450kcalほど付加することが一般的です。またインスリンの効きがよくなるので、インスリンが妊娠中に必要であっても、不要になることがほとんどです。中には、血糖が下がりきらないひともいるので、特に妊娠中にインスリンを使用していた場合は、血糖を測定して血糖の改善を確認します。
Q:妊娠糖尿病の人は産後も定期的な健診が必要といわれましたが、本当に必要なのですか?
A:定期的な健診+食事や運動に気をつけて、産後も血糖値に注意していくことが大切です
妊娠糖尿病は妊娠中の一時的な糖代謝異常ですが、そのうち30%程度の人には産後も何らかの糖代謝異常が見られると報告されています。また、妊娠糖尿病の妊婦さんは糖代謝機能に異常のない妊婦さんと比べて、将来糖尿病になる確率が7倍程度高いという報告や、将来的にメタボリックシンドロームの発症率が高くなるといわれています。これらのことから考えて、産後6~12週の間に75g糖負荷試験を行って産後の状態を評価します。その後も定期的に健診を受けたり、食事や運動に気をつけたりしていくことが大切です。
Q:妊娠糖尿病の場合、産後の日常生活ではどんなことに気をつければよいですか?
A:血糖値が妊娠前のレベルに戻っているかどうかをチェックして。授乳している人は低血糖にも要注意
産後6~12週の時点で、75g糖負荷試験を行って、自分の血糖値が妊娠前のレベルに戻っているかどうかを確かめておきましょう。また産後3~6ヶ月の時点で、妊娠前に肥満のない人(*BMI<25)は体重が戻っているかどうか、妊娠前に肥満のある人(*BMI≧25)は妊娠前より減量できているかどうかを確認しましょう。母乳の割合が多いほど、そして母乳を長くあげるほど女性の糖尿病の発症リスクを減らすことができるといわれています。なるべく母乳で育てられるよう、出産が近くなったら助産師さんに相談しておくのもよいでしょう。産後は子育ての忙しさもあり、食事や体重を気にする余裕がなくなる人も多いようです。赤ちゃんと一緒に、自分の体にも気を配ってあげてください。
*BMI=体重(㎏)/(身長(m))2
Q:糖尿病は遺伝するそうですが、妊娠糖尿病も遺伝しますか?
A:さまざまな要素がはたらいてはじめて糖尿病が発症します。怖がりすぎないで
糖尿病は1型糖尿病、2型糖尿病、その他の特定の機序や疾患による糖尿病に分けられます。1型糖尿病は膵臓のインスリンを出す細胞(β細胞)が破壊されることでインスリンが不足し、血糖値が上昇してしまうもので、遺伝関係はほとんどありません。一方、2型糖尿病はいわゆる生活習慣病の一種で、遺伝的要素の大きい病気です。妊娠糖尿病はこの2型糖尿病と密接な関係があります。
ただし、いくら遺伝するとはいっても糖尿病の要素を持っている人全員が糖尿病になるわけではありません。遺伝的要素に加え、過食、運動不足、肥満など引き金になる要素がはたらいてはじめて、糖尿病が発症します。したがってそうした糖尿病を発症させやすいライフスタイルから子どもを遠ざければ、その分リスクは低下します。遺伝による糖尿病の発症を必要以上に怖がるのではなく、正しく知って対策することが大切です。