この記事を監修したのは
竹内正人先生
医師(産科医)
地域、国、そして医療の枠を越えて、さまざまな取り組みを展開する行動派産科医。妊娠、出産などに関する著書多数。妊婦さんから絶大な支持を得ている。
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「帝王切開で出産した友人がいる」、「逆子とわかり、帝王切開について調べたくなった」。そんな妊婦さんも多いのではないでしょうか。帝王切開は、その増加の勢いに対し、まだ情報が少ないのが現状です。産科医の竹内正人先生に帝王切開について利点やリスクを詳しく聞きました。
【目次】
帝王切開とは?
帝王切開とは、お母さんか赤ちゃんに何らかの問題が生じ、経膣分娩(通常のお産)が難しいと医師が判断した場合に、手術によっておなかと子宮を切開をすることで、赤ちゃんを出産する方法です。
1985年にWHO(世界保健機関)は、適正な帝王切開率の基準を10~15%と示しました。当時、アメリカではすでに20%を超えていましたが、日本では5~10%ほどでした。ところが現在は、日本でも帝王切開率が20%を超える時代になりました。
日本で帝王切開が増えた理由は2つあります。ひとつは、主に産む側であるお母さん自身の変化。もうひとつは、リスクを排除しようとする社会的理由です。
詳しく見てみましょう。
帝王切開をする2つの理由
産む側の変化
●女性のライフスタイルの変化や不妊治療技術の進歩に伴い、晩産化、小産化が進みました。個人差はあるものの、初産婦は経産婦と比べ難産になりやすく、とくに高年初産では、子宮筋腫のほか、婦人科や内科疾患を合併する割合も高くなります。また、妊娠合併症として、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤など、いわゆる「ハイリスク妊婦」も増えています。
●女性の喫煙率の上昇、性感染症率の増加、過度なダイエットなど、産む力の低下や、食事、運動を含めた「生活習慣の変化」が影響している可能性も。
社会的理由
●安全性を重視し、逆子(骨盤位)の出産が帝王切開になるケースが増加中。
●リスクを回避したいという産む側の希望で、帝王切開を行うケースも。
帝王切開の利点
帝王切開は母体に負担のかかる手術ですが、赤ちゃんに対する安全性の向上が一番のメリットといわれています。母体にとっても、子宮下垂、子宮脱、膀胱脱、直腸脱といった骨盤臓器脱が、経腟分娩より起こりにくいとされ、産後1年での尿失禁の頻度も低くなります。
また前の出産で、経腟分娩をした体験がトラウマになっている場合や、死産の経験など、何らかの理由でお産に対する恐怖が強い場合は、それを回避することで精神的な負担を軽減できますし、入院・分娩・退院の一応の目安がわかることで、予定がたちやすいことも大きなメリットといえるでしょう。
特に予定帝王切開の場合、まさに「予定がたつ」ことが大きなメリットです。就労している場合は、仕事上の調整や産前産後休暇・育児休暇の申請準備、後任者への引き継ぎなどの予定が立てやすく、また、パパに出張はさけてもらう、上の子どもの保育園や学校行事と重ならないように医師と手術日を相談することなどもできるかもしれません。
帝王切開のリスク
長時間ベッドに横たわることでの「肺血栓塞栓症」のリスクが高まり、経膣分娩よりも5~10倍のリスクがあると言われています。しかし近ごろは、経過がよければ手術翌日に歩行することが一般的となってきています。また、ベッド上で足を動かしたり、弾性ストッキングで下肢を圧迫することで、血栓の予防策を行っています。
<その他>
- 次回妊娠時に前置胎盤になりやすい
- 帝王切開の回数が増えるほど癒着胎盤、膀胱損傷、子宮摘出のリスクが増える
- 次回妊娠で普通分娩を選択した場合の子宮破裂のリスクがあがる
- 麻酔薬によりショック状態になる
- 体質によっては術後傷口が、痛んだりケロイド状になる
- 赤ちゃんの肺に羊水が残ってしまい、新生児一過性多呼吸になりやすくなる(生まれて数時間で多呼吸となり、通常は2~3日で治まり、障害が残ることはまずありません)
などが挙げられます。
帝王切開の種類
帝王切開には、逆子や前置胎盤など、妊娠の経過において経膣分娩が難しいと予測され、あらかじめ手術日を決めて実施する予定(選択的)帝王切開と、主に分娩中、あるいは分娩前に何らかの問題が急に生じたために行う、緊急帝王切開の2種類があります。
予定帝王切開
・お母さん側の理由
前回の出産が帝王切開だった/赤ちゃんの頭が、お母さんの骨盤に比べて大きい/胎盤が子宮口をふさいでいるか近くにある/双子以上を妊娠している/赤ちゃんに影響のある感染症にかかっている/子宮の手術を受けたことがある/子宮筋腫がある/お母さんに病気がある/高年初産婦
・赤ちゃん側の理由
赤ちゃんの頭が下を向いていない/赤ちゃんが生まれやすい胎位になっていない/赤ちゃんが大きい/赤ちゃんの育ちが悪い/赤ちゃんになんらかの問題や病気がある
緊急帝王切開
・お母さん側の理由
初産婦で30時間、経産婦で15時間以上かかっている/破水後、子宮内に雑菌が入る/妊娠がきっかけで重度の高血圧になった/赤ちゃんが産まれる前に胎盤がはがれる/子宮が破裂する兆候がみられる
・赤ちゃん側の理由
赤ちゃんの状態に問題があると疑われる/へその緒が先に下がっている、あるいは出てしまった/妊娠数週が早い未熟児の場合/赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれる
なお、とくに緊急帝王切開の場合は、なぜ自分のお産が帝王切開になったのか分からないままになることも少なくありません。次回の出産のためにも、理由は医師に尋ねておきましょう。
帝王切開も、きちんとしたお産です!
妊娠中に医師から帝王切開についての話があったとしても、十分な情報や理解ができず不安になる妊婦さんもいます。また、元気な赤ちゃんを授かっても、帝王切開だったという事実を受け入れることができずに戸惑うかたや、そんな気持ちを周囲から理解してもらえず、さらにつらい思いをしているケースも。
【帝王切開で出産した女性のコメント】
友人から「帝王切開なら痛くなかったでしょう。楽でよかったわね」と言われ、義母からは「次はちゃんと産んでね」と言われ、とても傷つきました。
こんなことで悩むのは、私だけでしょうか・・・。
子どもは1人と決めていたので「出産」そのものに期待していたのですが、陣痛を経験できなかったことに強い喪失感を覚えました。
周囲には帝王切開だったことを話せないでいます。
(※ママのための帝王切開の本より引用)
【赤ちゃんを迎える準備記事】