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【02 | 母性について】- BABY365のある日々

 

★前回のお話

 

 

おっぱい問題といえば、乳管を通すためのマッサージ、これもつらかった。

 

なにせ痛い。

 

出産から二日目、やっとわずかに母乳は出るようになったものの、そのわずかな母乳を与えるにも、吸われることに慣れていない母親と、吸うことに慣れていない赤ちゃん。

 

ふたりによる共同作業はそう簡単にはいかない。

 

しかも痛い。

 

命、削ってるなと、しみじみ思う。

 

 

赤ちゃんの吸う力がまだ弱いからと、吸わせるのではなくこちらで搾ってあげようと搾乳するも、これがまたなかなかに痛い。

 

自動搾乳機ならそこまで痛くはないのだけど、

なんかつらい。

 

経験者ならきっと共感していただけると思うのだが、なんかつらいのだ。

 

 

たとえるなら鶴の恩返しの鶴の気持ちのような。

けっして覗かないでください。そんな感じ。

 

なのに、やっと搾乳した母乳をこぼしてしまい、深夜ひとりしくしく泣く始末。

 

貴重な初乳を誤って捨てることになった日のことはいま思い返しても泣けてくる。

 

ごめんね、ごめんね。

 

何度も声に出して謝った。

 

もちろん赤ちゃんは大丈夫と言ってはくれない。

 

まだ見えないと言われる目で、しかしすべてを見透かすかのように微笑むだけ。

 

 

わたしは何かに突き動かされるように、折れて床に散らばった心を拾い集め、ただひたすらに母乳を与えることに励んだ。

 

つまり、これこそがいわゆる母性というものなのか。

 

痛くても、つらくてもこの先、仮に万が一、乳首のかたちが変わってしまおうとも、とにかく目の前の我が子に与えたい、そう思った。

 

そして、いまではすっかり母乳も、赤ちゃんの泣き声を聞くと、またたとえ眠っていようとも、授乳の時間になると自然に溢れ出るようになったのだから、しかし女体って、母体って、すごい

 

 

妊娠して、体調どころか体質まで変わり、自分なのにもう自分じゃないような寂しさと、同時になにやら穏やかに湧き上がるものを感じ、それを母性と呼んでみたりしていたが、やはり出産して、育児をしてみて、はじめて母性というものを体感した気がする。

 

それはただ甘くやさしく生あたたかいものとも違う。

 

もっと懸命で現実的で必死で、すべての大前提にあるもの。

 

思考を働かすまでもなく最優先にあるもの。

 

それは本能と呼ばれるものかもしれないし、あるいはただのホルモンの仕業かもしれない。

 

けれどもとにかく、10ヶ月間大切に育んできたそれは、出産を経て、この数日の間だけでさらに大切さを増し、そして日に日に愛おしくなっている。〈つづく

 

 

★『BABY365のある日々』は毎月第一木曜日更新です。

 

 

■この日のBABY365

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Profile 【著者】堀川 静

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フリーランスライター。「Hanako」や「BRUTUS」などの雑誌を中心に広報誌や地方自治体のブックレット、WEBマガジンやコーポレートサイトなど、幅広いジャンルの媒体で執筆。2018年9月に第一子となる女の子を出産。現在、育児と仕事の両立を模索中。

 

 

 

 

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