妊娠中、わたしはすこぶる元気だった。
もちろんつわりはあったものの、程度はかなり軽いほうだったと思う。
妊娠2ヶ月の頃、出張先のベトナムで貧血を起こし倒れたときも、介抱してくれた現地の方が出してくれたアイスティーのストローをぼーっと眺めながら、世界中のストローがレモングラスになればいいのになどと考えられるくらいの余裕はあった。
ベトナム以外にも出張には数カ所出かけたし、出産前に南イタリアとローマも旅した。
どんどん重くなっていく自分の身体に戸惑うことはあったけど、自ら変えなきゃいけないことといえばお酒をやめることぐらい。
しかし、大好きだったはずのお酒は、自分でも不思議なほど、自然と欲しなくなっていた。
同時に、気がつけば味覚や嗜好も変わっていたけど、それを受け入れるのに努力は必要としなかった。
振り返ってみても、おなかが大きくなっていくこと以上の変化は自分の中にはなかったような気がする。
むしろ、妊婦の自分に慣れてからは、膨らんでいくおなかも楽しむようになっていた。
破水した夜も病院で原稿を書いていたし、産後の入院中も次の取材のアポ入れをしていた。
出産は想像を遥かに超える壮絶な事件ではあったけど、出産したその日の午後にはお見舞いに来てくれた人たちにお茶を出す余裕もあった。
出血多量と言われていたけど、自分でも驚くほどピンピンしていた。
だからなのか、そのまま
出産後もその感じでいける気がしていた。
それまでの生活が気に入っていたし、変えるつもりはなかった。
というか、変えたくなかったのもある。
当時のわたしは、それまでの生活にプラス赤ちゃんが加わるぐらいの感覚でいたのかもしれない。
しかし、そうはいかなかった。
いわゆるアグネス論争と呼ばれる子連れ出勤の是非をめぐる論議が社会問題として取り上げられたのは、今からもう30年前のこと……〈つづく〉
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Profile 【著者】堀川 静
フリーランスライター。「Hanako」や「BRUTUS」などの雑誌を中心に広報誌や地方自治体のブックレット、WEBマガジンやコーポレートサイトなど、幅広いジャンルの媒体で執筆。2018年9月に第一子となる女の子を出産。現在、育児と仕事の両立を模索中。