この記事を監修したのは
諸隈誠一先生
医師、医学博士/九州大学大学院医学研究院 保健学部門 教授/日本赤ちゃん学会理事
1996年九州大学医学部医学科卒業。2018年4月、同大学大学院医学研究院保健学部門教授に就任。
一般社団法人NS Labo(栄養サポート研究所)
管理栄養士
全国約1000名の管理栄養士をサービスパートナーとして、健康やヘルスケア事業に取り組む企業や法人の事業サポートやコンサルティング、管理栄養士の人材育成を行う。
Q:最近の妊婦さんは、ビタミンD不足って本当?
最近の妊婦さんはビタミンDが足りていないと聞きました。
ビタミンDが不足すると、何が困るのでしょうか?
A:本当です。少しだけ意識してみましょう
近年、10~20代女性のビタミンD不足が目立っています。ビタミンDは妊婦さんにとって、とくにに重要な栄養素です。しかし、その重要性や摂取方法がさほど浸透していない傾向にあるようです。
ビタミンDは、母体と胎児双方の健康を維持していくために必要不可欠な栄養素です。骨の成長だけでなく、免疫力にも関わる栄養素として最近、注目を集めています。
ビタミンDってどんな栄養素なの?
ビタミンDは脂溶性(水に溶けにくく脂に溶けやすい)ビタミンの一つであり、体内のカルシウム濃度を調節する働きを担っています。ビタミンDが不足してしまうと、カルシウムを摂取しても十分吸収されず、カルシウム不足に陥ります。
血中のカルシウム濃度が低下すると、骨からカルシウムが溶け出して供給するようになります。
そしてその結果、骨がもろくなり、くる病や骨軟化症等の症状が出現してきます。
ビタミンD不足により体内のカルシウムの機能が低下すると、免疫力低下、糖尿病、骨粗鬆症、骨軟化症、動脈硬化、筋力低下等を引き起こすおそれもあります。
妊婦さんにビタミンDが不足するワケ
ビタミンDは、きのこ類、サケ等の魚類に多く含有されていますが、ほかの食品にはあまり含まれておらず、摂取基準量を食品だけから摂ることは難しいのが現状です。
実際に9,000名ほどの日本人の血中ビタミンD量を調査したところ、十分なビタミンD量を維持していない人が90%以上だったという報告もあります。〈※1〉
とくに若い女性層では、魚類の摂取量が少ないことや徹底した紫外線対策でほとんど日光を浴びていないなどによりビタミンDが不足する傾向にあります。〈※2〉
【妊婦さんにビタミンDが不足する主な理由】
・普段の食事から十分に摂りにくい
・若い世代は、魚を食べる習慣が減っている
・UVケアにより、太陽からのビタミンDも生成しにくい
妊産婦さんにビタミンDが必要な理由とは?
妊婦さんにビタミンD不足がみられると、生まれてくる胎児の発育期(とくに骨の発育期)にカルシウムが骨に沈着できず、丈夫な骨組織が作られない「くる病」を発症する可能性があります。また、これまでは自然なものと思われていた赤ちゃんのO脚とビタミンDの関連もわかってきました〈※3〉。
また免疫機能、脳機能、骨、筋肉などのさまざまな部分でとても重要な役割を果たしているため、体内でビタミンDが不足するとママも胎児も感染症などの発症リスクが高まります。
ビタミンDは母体と胎児の健康を守る大切な栄養素
ビタミンDは、胎児の骨が正常に発育するために重要な栄養素です。
またビタミンDが不足傾向にあると妊娠合併症や早産、喘息などのリスクが高まると考えられています。
カルシウムのサポートをする働きを担っているビタミンDは、食べ物からの摂取以外にも、太陽光(紫外線)を十分浴びることで、体内で合成されることから「太陽のビタミン」ともいわれています。
ビタミンDは、母体と胎児の健康を守ってくれる大切な栄養素であることを再認識して、積極的に必要量をとるようにしていきたいですね。
〈※1〉Nakamura K et al. Impact of demographic, environmental, and lifestyle factors on vitamin D sufficiency in 9084 Japanese adults. Bone. 2015 May;74:10-7.
〈※2〉H29年度の国民健康栄養調査より20歳以上の女性のビタミンD摂取量は5.0μg.
日本人の食事摂取基準(2020年版)18歳以上女性のビタミンD目安量8.5μg
国民栄養調査の魚類の摂取:H27年69.0g → H28年65.6g → H29年64.4gと年々減少
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