出産から半年ほどで終わると聞いていたマミーブレインの症状は、出産からもうすぐ一年が経とうとしているいまも一向に改善の兆しはない。
だからというわけではないのだけど、
つい先日、雑踏のなかで娘を抱き上げたときにふと
去年の夏、この子はわたしのおなかの中にいたんだ。と、
とても当たり前のことを、とても新鮮な感覚で思い出した。
たった一年しか経っていないのに、すでにそのときが懐かしい。
妊娠中、10kg近く重くなった身体と、見ず知らずのおばあさま方に「そのおなかは男の子ね」と確信を持って声をかけられるほどにやたら大きく前に突き出たおなかを抱え、暑いだ重いだ言っていたような気がするが、
いまから思えばそんなことなんでもなかったことのように思える。
重いおなかを抱えていても、両手は空いていたわけで、仮にアイスラテで片手がふさがっていても、もう一つの手にはまだ何か持つことができた。
そうしたいと思ったら、涼しい映画館で最新の映画を観ることもできたし、ホテルでアフタヌーンティーを愉しむことも、日が暮れて涼しくなった頃にふらりと出かけることだってできた。
そんな日々を懐かしむも、しかしはっきりとは思い出せないので、日記を読み返してみると、
とはいえ、思うほど気楽な日々を送っていたわけでもないことを思い出した。
妊娠中やたら元気だったわたしは、妊娠8ヶ月で南イタリアを旅したりもしていたが、多かれ少なかれはじめての妊娠〜出産に不安がないわけはないわけで、そんなことしながらもそれなりの不安を抱えていたことが日記には書かれている。
なかでもわたしを最も不安にしていたのは、娘が逆子だったことだ。
母に聞くと、どうやらわたしも逆子だったらしいのだが、むかしは経験豊富なお産婆さんがたくさんいて、逆子だろうと関係なく自然分娩だったという。
それはそれで怖い気もするが、現在の医療では基本的に逆子はみな帝王切開。
わたしがバースプランに希望していた水中出産なんて、逆子のままではもってのほか。とにかくもう祈るような気持ちだった。
臨月に入っても、上を向いたまま下を向く気配のない娘にどうにか回ってもらおうと、体操や漢方、お灸や整体など、逆子にいいと聞いたことはひと通り試した。
しかし、逆子は戻らない。
エコーで見ると、律儀に上を向いて正座している。
かわいい。
それはそれでかわいいのだけど、そゆことではない。
悩んだ挙句、わたしは外回転の施術を受けることにした。
輸血の可能性や合併症の危険性など、あらゆるリスクを受け入れ、同意書にサイン。
不安最高潮のなか入院手続き済ませ、採血後、点滴を開始。
貧血気味だったこともあり、その時点ですでに気を失いそうになっていた。
やっぱりやめます。そんな言葉を何度か飲み込み、いざ外施術。
と、その前に触診があった。
わたしは目を閉じ、すべてをゆだねる(ヨガでいう屍のポーズ)。
すると突然、先生が声を上げた。
「こんなことってあるんですね」
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Profile 【著者】堀川 静
フリーランスライター。「Hanako」や「BRUTUS」などの雑誌を中心に広報誌や地方自治体のブックレット、WEBマガジンやコーポレートサイトなど、幅広いジャンルの媒体で執筆。2018年9月に第一子となる女の子を出産。現在、育児と仕事の両立を模索中。